凛々しく、可憐な許婚
「咲夜」

エレベーターの前で壁に手をついて俯く咲夜を、尊が呼び止めた。

「来ないで」

咲夜の俯いた顔から一粒の滴が落ちる。

"泣いているのか?"

尊を見上げた咲夜は、慌てて涙を拭う。

「わ、私、飲むと泣き上戸になるんです」

酔っている咲夜は行動が予測できなくて,,,とても可愛い。

しかも、酔った咲夜は本音が隠せない状態になっているようだ。

到着したエレベーターに咲夜を押し込む。

「お義父様が部屋を取ってくれている」

尊は、迷わず30階のボタンを押した。

「私は帰ります」

咲夜は負けじとlobbyのボタンを押す。

"なんなんだ、この可愛いレア咲夜は"

怒っているらしいのに、抵抗されているのに、尊は嬉しくて仕方なかった。

もっと本音を教えてほしい

もっともっと、素顔を見せてほしい

「もう、一緒に居られない,,,!」

両手で顔を覆った咲夜の口から嗚咽が漏れる。

「吉高から何か言われたのか?」

咲夜の肩がビクッと揺れる。

"やっぱり,,,"

「吉高の言葉なんかより、俺の話を聞いてほしい。黙って一人で悩んでたって答えは出ないんだ」

咲夜の顔から手をずらすと、クシャクシャの泣き顔が見えた。

「咲夜、話をしよう」

ゆっくり頷いた咲夜は、尊のスーツの裾をつかんで尊に寄りかかってきた。

尊はニヤケる口元を右手で隠しながら、左手で咲夜の頭を抱き寄せて部屋の前まで進んでいった。

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