主任、それは ハンソク です!

 上座からそんな声が上がると、向かいの男性はちょっと困り顔をする。悪い人ではなさそうだ。でも、この人と結婚するのかと思うと、正直、ピンとこない。

「えーっと、得野さんの、お嬢さん……」

 さすがの必殺・お見合い人も、私の苗字は覚えているんだ、と妙に感心した矢先。

「よ、洋子です。洋子と、いいます」

 上ずった父の声が後ろから聞こえた。ガチガチに緊張する父の横で、母も満面の愛想笑いをしているに違いない。何となく、こくこくと激しく頷いている気配がする。

「それにしてもまさか、うちの息子が、得野さんみたいな大地主さんのところとご縁があったとは」

 気まずい空気を察したのか、はす向かいの女性がすかさず会話を振ってきた。
 息子、と言ったということは。この人がお姑さんになるのだろうか。

 正直、私から見ると、母というよりも祖母と言った方が近い年齢のような気がする。一気に不安が押し寄せてくる。

< 147 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop