主任、それは ハンソク です!

「……さて」

 そういうと、佐野さんが意味ありげににっこりとほほ笑んだ。
 それを合図とばかりに、当人たち以外が居ずまいを正した。そろそろ二人きりにされそうな空気が漂ってくる。

「後は、若いお二人に任せましょうか」

 その時。無意識だったのだろうけど、お見合い相手が小さく舌なめずりした。
 怖い。それしか、今は浮かばない。

「私たちは、そろそろ」

 ああ、そうですね、と各々の親が腰を上げだす。背後の母親がこそっと私に耳打ちした。

「何があっても粗相の無いようにね」

 おろおろと向かいに視線を這わすと、今までとは打って変わって、じぃっと彼がこちらを見ている。まるで親の仇か何かのように。

 もう、パニック寸前だ。助けて、誰でもいい。

 でも、咄嗟に思い浮かんだその顔は、誰のものでもなくて――。

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