主任、それは ハンソク です!

 さすがの佐野さんも、あらまぁとびっくりしている。佐野先生も、本当かい? とこれまた驚いた面持ちで主任を見上げた。
 主任は、というと。苦笑しながら、半分あたりで半分外れです、と佐野夫妻を見下ろしながら答えている。

 その返答が面白くなくて、祖父がいよいよ立ち上がりかけたから。

「あ、あのっ」

 思わず声を上げてしまった。今度は全員の視線が私に集中する。
 ぐっと喉の奥に声が詰まる。でも、ここできちんと言わなくちゃ、主任への誤解はとけないままだ。

「か、彼は、鈴原東吾さんと言いまして、今、私がお世話になっている派遣先の直属の上司です」
「その立場を利用してだな」

 口を挟もうとする祖父を、佐野さんがにっこり笑顔でまぁまぁとなだめる。
 大きく深呼吸して、私はなおも続ける。

 大丈夫、落ち着け、私。

「主任は、私の、仕事の悩みや相談にたくさん乗ってくださっていて、あの晩も正にそうでした。そういう疚しい関係とかは、一切ありませんっ!」

 祖父母も、父も母も、唖然としている。
 それもそうか。私がこんな大声で意見するなんて、今までなかったから。

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