主任、それは ハンソク です!
次はお向かいの男性に視線を合わせると、しっかり頭を下げる。
「あの、伊東さん。今日はせっかく来ていただいたのに、申し訳ありませんが、私っ」
その時。向かい側から盛大なため息が聞こえた。
慌てて頭を上げると、お見合い相手の男性が下唇をペロリと舐めて、途端に苛立ち紛れの早口でまくし立ててきた。
「私はですね、今日の相手は、母からまだ20代の女性だ、と聞かされてきたんですよ。しかも、あのお見合い写真だ。てっきり20歳なりたてかと思ったら、まさか、こんなとうが立った女が来るとは思いもしなかったですよっ」
馬鹿らしい、帰るっ! とわめきながら彼は部屋を出ていった。残された彼の両親もこちらにおざなりな会釈をすると、慌てて彼の後を追っていく。佐野さんも苦笑しつつ軽くこちらに会釈をすると、その後に続いた。
「……全く、彼は相変わらずだな」
佐野先生がぼそりとつぶやいた。
「相変わらずって?」
主任の問い掛けに、佐野先生がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。新聞の政治欄やテレビで良く見る顔だ。