主任、それは ハンソク です!

 今は夜の9時ちょっと前。私の門限云々の話を主任はちゃんと覚えていてくれたみたい。でも、主任はまだ飲み足りないのかもしれない。周囲の楽しそうな様子をちらちらと横目で伺うのを見ると、少し申し訳ない気がする。

「……あの、今日は、ありがとう、ございました」
「いや、こっちこそ。久々に楽しく飲めたよ。ありがとう」

 酔いがぶり返してきたのだろうか、なんだか顔がすごく火照る。耳まですっかり熱くなる。

「お、おいっ、なんか急に顔赤いぞ。大丈夫か? 何なら、送るか?」
「いえいえいえいえっ! それには及びませんからっ!!」

 私は全身全霊で拒否する。申し訳ないのはもちろんだけれど、何よりも家族に知れたら大事になるのは火を見るよりも明らかだ。

「あの、また、さ」

 主任が何かを言いかけたその時、私たちの前に流しのタクシーが止まった。

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