死にたがりな彼女
「うわああああああああああああああああああああああああああああ」
司会者はその、炎に燃やし尽くされて溶け出した眼球に睨めあげられ、ついに発狂した。
自らガソリンを被り、自分の身体に火をつけて、司会者には聞こえていたのだろうか、耳を掻き毟りながらのた打ち回った。
観客は突然の事で訳がわからず、静まり返る。
そして、一人が口笛を鳴らした。
燃え上がった炎の中、既に動かなくなった女と、耳を掻き毟りすぎて、耳が取れても尚、耳のあった場所を掻き毟る、男。
拍手や歓声が沸き起こるその中で、人の燃える、想像を絶する異臭の放つ中、僕たちはその様子を眺めた。
男も動かなくなると、テキパキと、他の作業員が水をかけて男を片手で掴んで馬車の荷台に投げ入れ、女を十字架から引き剥がして、同じように荷台を投げ入れた。
「思いがけず、司会者まで死んでしまいましたが、まだまだ裁判は続きますよ!今度は老婆!コイツも魔女だ!コイツは村の子供たちを優しい声でおびき出し、その柔らかい肉を貪り食った悪魔だ!」
観衆がまた、声を上げる。
「殺せ」とコールが響き渡ったとき、ソウェルは僕の外套(マント)を引っ張って「行きましょう」と声をかけた。
僕たちはその見世物小屋から離れる事にした。
すると、同じように離れてきた三十代ほどの細身の男が、声をかけてきた。
この町の人間と似て、小綺麗な格好をしている。