死にたがりな彼女
「うん」
頷いて、返す。
あの空にある太陽は、偽物だ。
本物の太陽は、多分今、この手を握ってくれている。
分厚く黒いカーテンを引いた部屋の中でも平気だったのは、部屋に太陽があったからだろう。
だけど外にある太陽は我が物顔で自分の素晴らしさを吹聴してくる。
この儚くて弱くて、柔らかい太陽はそんな偽物の邪悪な力には勝てず、焼き尽くされて、燃やし尽くされて消滅してしまうかもしれない。
それが、厭なのかもしれない。
頷いてから何も言わない僕を訝しがる様子なく、ソウェルは一つ納得をすれば、また波打ち際を歩き出した。
ぎゅ、と繋いでいるその手の弱々しい力に、僕は少しだけ嬉しいような泣きたくなるような、そんな複雑な気持ちになった。
「見て、シーファ」
ソウェルが指をさすその先には、薄暗い空に照らされて、青白く染まる肉の塊。
近づいてみると案の定、波に打ち上げられた水死体だ。
人間の肌の色とは到底似つかわしくないほど、白と言うよりは、コンクリートや石畳のように白に違う何かの色を混ぜ込んだような、そんな複雑な色をした肌の持ち主は、洋服を見なければ男女の区別が付かないほど膨れ上がって、まるでぶくぶくと太った巨大な蛆虫のようだった。
皮膚は所々削り落ちていて、身体中に藻などの海草が付着していた。
時折腹部がピクピクと小さく動く。まるで生きた魚を丸呑みしたような。
いや、実際この死体の腹の中で生活している魚が居るのだろう。
その死体は腹の中の魚の存在を気味悪がることなく、身体の上半身を浜に、下半身を海につけて、満ちては引く波に小さく揺れていた。
白いワンピースが、波に揺られている。
「水死体はやっぱり綺麗じゃないわね」
「魚に食べられるしね」
削れた女の身体を眺めながら呟いた。