死にたがりな彼女
それ以上、僕らは何も言わずに薄暗くなった海をぼんやりと眺めた。
微笑みながら、死体を食べた魚の死体を食べている、先ほどの男を思い描きながら。
「私、水死体にだけはなりたくないわ」
言って、ソウェルは白猫のポシェットからメモ帳を取り出すと「すいし」と書いてその文字の上に線を引いた。
ちなみに「じゅうさつ」の隣には「いっかいくらいなら○」と書かれている。
一発で仕留めることが出来るなら銃殺を希望するという事だろう。
「でも、骨を砕いて海へと撒いてもらえるのはいいかもしれない」
その骨を砕くのは、誰の役目だというんだろう。
砕いた骨をこの海へ撒きに来るのは、誰の役目なのだろう。
その答えを聞くことは、僕には出来ず、ただ黙って寄せては返す波を眺めながら隣にある体温が、この海のように冷えていかないように外套(マント)を肩に掛けてやった。
「冷えてきたね、行こうか」
そう声を掛けると、一瞬、月の光のように溶けて消えてしまいそうな微笑を湛えて、ソウェルは小さく頷いた。
ホテルなどない田舎町。
僕たちは廃墟となった病院で一夜を過ごした。
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