死にたがりな彼女
「あったさ。ミスコンに選ばれるために他の綺麗な顔の女に、前日、暴力団を送り込んだり、金持ちの女が他に居れば自分の会社でひねり潰し上げたり…僕はそれで職を失った。全部自分が一番じゃないと気が済まないんだ。こいつの所為で、何人かは重症、何人かは追い詰められてヒステリーを起こして、今でも精神病院通いをしてるやつもいる。死んだ奴だって居たんだ。そういえば一昨日辺り、ジュリエッタに目を付けられていた女が拷問にあって殺されたって聞いたな…」
「メルヴィー街であった事件ね」
「あんなことがあったから誰も助けなかったんだろう。自ら危険を冒してまで、助ける相手じゃない。死んで当然だ」
そう言って男は去っていった。
ソウェルは男の背中を眺めて、また惨劇の現場を眺めていた。その時、
「あら?」
ソウェルは小さく呟くと線路と此方を隔てるフェンスにしがみ付いて、ジッと普通なら直視したくない現場を眺めた。
「どうしたんだい、ソウェル」
「シーファ、ジュリエッタの髪は赤いけど、ジュリエッタの脚に絡み付いているのは黒いわ」
まるで手のように、線路に刺さったジュリエッタの足に絡みつく黒い髪。
僕はそれを見て、一昨日、メルヴィー街で火あぶりにされた女の事を思い出していた。
「死んでしまえ」と呪詛のように呟き続けてその身体を焼き尽くされて動かなくなった、女。
ふと、ジュリエッタから目を逸らしてホームを見た瞬間、ジュリエッタの死を間近で見ようと人だかりを作るホームの、本当に隅っこに、一昨日死んだはずの女が真っ黒に焼けた皮膚を曝して、異様に白い歯を此方に剥き出しにして見せていた。
「行こう」
僕はソウェルの手を引いて、家路へと向かった。
また電車の音がする。
その電車はまた騒音と、おぞましい、何か水を含んだ細胞が潰れるような音を立てながら、それでも止まらずに、車輪を赤く染めながらその大きな身体を小さな線路に乗せて、僕たちを追い越していった。