死にたがりな彼女
太陽の光など、見たくもないと言いたげに、その森は鬱蒼とした、普通の精神を持ち合わせた人間ならば「気味が悪い」と近寄りもしないだろう、森だった。
手招かれるように、僕たちはその森の奥へと入って行き、途中にあった切り株に腰を下ろした。
ソウェルが水筒からカップへと紅茶を注ぎ、僕へと勧めてくる。
それを有り難く受け取りながら僕は漸く、太陽の身勝手な愛情が降り注ぐ世界から解放された気がした。
「此処は涼しくていいわね、きっと夏も涼しそう」
「腐りにくいだろうね」
見上げれば空と、生い茂る木々の対比は2:8と言ったところだ。
夏でも此処は太陽が当たらず、それ故に涼しい。冬は恐ろしく寒く、寂れて廃れた、生命と言うものを一瞬も感じることないまさに死の森と化しそうだが。
「だけど首吊りは綺麗じゃないわ、ほら」
言って、ソウェルは僕の背後を指差す。
振り返った先には丁度、暗がりで見えなかったが、10mほど先に、あった。
異様に長い、普段の生活ならば人間の首がこんなにも伸びることは想像もつかないほど、重力に負けて伸びきった首の皮膚が、離れていてもわかる首吊り死体。
頭の部分は青黒く黒ずんでいて、鬱血しているようだ。
だらりと力なく投げ出されている両手足は、時折吹く風に揺られてダンスを踊る。
僕はそれを眺めながら小さく紅茶を啜った。近くからもう一つ、紅茶を啜る音が聞こえる。
「ね?」