エリート弁護士と婚前同居いたします
出会い
「茜(あかね)、私プロポーズされたの」

 日曜日の朝、午前十時過ぎ。休みの日の特権とばかりにのんびりと眠っていた私は、喉の渇きを覚えてキッチンに向かった。そこで耳にした言葉に瞬きを繰り返す。
 あれ、私まだ夢を見てる?
 思わず自分の着ている部屋着を見る。膝上五センチメートルほどの淡いブルーのショートパンツにお揃いのタオル生地のパーカー。素足に昨夜塗った真っ赤なペディキュアが目立つ。
 目の前には休日の朝だというのに普段通りにメイクをし、品の良いベージュの総レースブラウスとスカートのセットアップを着た姉の柔和な笑顔。

「茜?」
 返事をしない私を訝しんだのか、姉の菫(すみれ)がもう一度私の名前を呼ぶ。
「え、お姉ちゃん?」
 キョトンとする私。
「やだ、茜。まだ寝ぼけてるの? コーヒー飲む?」
 姉の言葉にこくんと頷く。
 カウンターキッチンの中で姉がコーヒーを淹れてくれる様子をじっと見つめて、ひと続きになっているリビングスペースに向かう。赤い布張りのふたり掛けソファに座る。ぷうんとコーヒーの芳ばしい匂いがした。

「はい、どうぞ」
 ソファの前にある楕円形のセンターテーブルの上に姉がコトリと湯気のたつマグカップをふたつ置いた。リビングに面した大きなガラス窓からは柔らかな五月の陽射しが差し込む。いつもと変わらない日曜の朝。いつもと変わらない休日。

「お姉ちゃん、さっき何か言った?」
 立ったままだった姉が私の右隣に座る。心なしか姉の頰が赤い。
「あ、あのね。私、侑哉(ゆうや)と結婚しようと思うの」

 結婚……?

 一分間ほど言われた言葉を反芻した。
「け、結婚、結婚ってお姉ちゃん! 侑哉お兄ちゃんと!?」
 吃驚の声を上げる私に姉がはにかんで頷く。
「……プロポーズされたんだ! 良かったね、お姉ちゃん」
 胸にじんわりと熱いものが広がる。
「ありがとう、茜」
 ふんわりと微笑む姉は本当に綺麗だ。
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