エリート弁護士と婚前同居いたします
「ちょっと待って、茜。ごめん、スマホに連絡くれてたのってこのこと?」
私はぎこちなく頷く。

「ごめん! 俺今日ずっと外出してて、折り返し連絡する余裕がなかったんだ。さっき戻って今、また出るところで本当、ごめん」
心底申し訳なさそうに言ってくれる朔くんに、私は再び首を横に振る。
「ううん、大丈夫。無事に渡せてよかった」
笑顔でそう答えると彼が戸惑ったような表情を見せた。

「おい、上尾! 急に走るなよ!」
後ろから別の男性の声がした。
朔くんがさっと私を自身の身体の後ろに隠す。
「さ、朔くん?」
 何をしているのかわからず、問いかける。

「お前今、可愛い顔してたからダメ」
朔くんが顔だけ振り返って私の耳元で囁く。その声にカアッと真っ赤になる。
「ほら、その顔」
顔を軽くしかめて、からかうように言う。

「だ、誰のせいよ!」
思わず叫ぶ私。そこにひとりの長身の男性がやってきて、私と朔くんを見て声を上げる。
「あれ、もしかして……君が茜ちゃん?」
頰にかかるくらいの長めの前髪を無造作に分け、縁なし眼鏡をかけた、これまた整った顔立ちの男性。眼鏡の奥の目は面白そうに笑っている。

「佐田、勝手に名前で呼ぶな」
朔くんが目の前の男性に不機嫌そうに言う。
「なんで、いいだろ。ねえ、茜ちゃん? はじめまして、同僚の佐田 啓介(さた けいすけ)です」
そう言って佐田さんは朔くんの背後にいる私を覗きこむ。

「茜に近付くな」
 憮然とした声で朔くんが言う。
「あ、あの、はじめまして。香月 茜です」
朔くんを押しのけて挨拶しようとするけれど、彼の身体はびくともしない。
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