エリート弁護士と婚前同居いたします
「もう、朔くん!」

しかめっ面で彼を見ると仏頂面を返される。その姿に佐田さんはクスクス笑っている。
「へえ、冷静沈着でどんな時も感情を表に出さないお前に、こんな顔をさせる女の子がいたとはね。俺、茜ちゃんにすごく興味があるな」
「うるさい、佐田」
朔くんは目の前の佐田さんを、綺麗な瞳を眇めて睨む。まとう空気が驚くほど冷たい。

「上尾くん? その人、知り合いなの?」
突然、凛とした女性の声が響いた。私たちの方に向かって日高さんがカツンとヒールを鳴らして近付いてくる。表情は依然険しい。
「何かトラブルなら、私が話すわ。今から外出よね?」
朔くんに完璧な笑顔で話しかける日高さん。ちらりと私を見るその視線は氷のように冷たい。ギクリと私の顔が強張る。

「日高、なんの話?」
一瞬だけ私を見た朔くんは、訝し気に返答する。その言葉に彼女が少し眉間に皺を寄せる。
「この方、先程も受付にいらしたの。あなたに会いたいっていうのに約束もないって言うから、丁重にお引き取り願ったはずなのだけど」
彼のすぐ近くまで来て、私に勝ち誇ったような視線を向けつつ、囁くように言う。残念ながらその声は私に漏れている。これはわざとだろうか。

「へえ、受付に? それで追い払ったのか?」
朔くんの焦げ茶色の瞳に鋭さが少し増す。いつもよりも低い声が冷たく響く。
「追い払うなんて、まさかそんなことしないわ」
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