エリート弁護士と婚前同居いたします
「日高、茜ちゃんは上尾の大事な人だよ」
面白がるような表情はそのままに、佐田さんが言う。その瞬間、日高さんの完璧な笑顔が凍りつく。

「……どういうこと?」
先程とは打って変わって厳しい声で彼女が佐田さんを睨んで尋ねる。
「日高、恐い顔するなよ。美人が台無し」
対する佐田さんの態度は変わらない。まるでこの状況を楽しんでいるようだ。

「茜は俺の婚約者だよ」
なんでもないことのようにさらりと朔くんが言い放つ。

「なんですって!?」
「ええっ!!」
私と日高さんの吃驚の声が広いエントランスに響く。
「なんで茜が驚くの?」
若干不貞腐れたような顔で朔くんが私の顔を覗きこむ。

「ええっと、あの、だってほ、本気だったの?」
以前、付き合う前に家賃代わりの条件として結婚しよう、とは言われていたけど冗談だと思っていた。
気持ちを確認しあって付き合うようになってまだ一カ月も経ってないのに! 

カアッと顔が火照り、うろたえてしまう。
しかもこんなところでいきなり発表されても! 
周囲の女性たちがこっちを見て固まっているのがわかる。物凄く目立ってしまっているというのに朔くんは全く気にせず飄々としている。

「俺は茜に嘘は言わないよ?」
チョコレート色の瞳に泣きたくなるくらいの甘さを宿して彼が私を見つめる。そうっと朔くんが空いているほうの手で私の髪を撫でる。
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