エリート弁護士と婚前同居いたします
真実
「……落ち着いた?」

コトリ、と私の前に湯気の立つマグカップが置かれた。
「甘めのカフェオレよ」
そう言って頼りになる親友は優しく微笑む。フローリングの床に敷かれた、白い毛足の長いラグに座り込む。詩織は私の隣にゆっくりと腰を下ろす。

マンションを飛び出した私はやみくもに夜の街を走り抜け、震える指で詩織に電話した。
幸いにも電話に出てくれた、親友の声に悲しみをこらえきれず号泣してしまった。
そんな私の様子に驚いた詩織は、支離滅裂な私の言葉を辛抱強く聞いて、晃くんと迎えに来てくれた。

晃くんは私をふたりの自宅に招き入れてくれた後、気を利かせて友人の家に出かけていった。詩織は泣きじゃくる私をただ黙って抱きしめてくれた。

「……ごめんね」
ほんの少し気持ちの落ち着いた私は、テーブルに置かれたマグカップを両手に握った。あんなに走って汗をかいていたはずなのに、身体も心も冷えて寒いくらいだった。
手のひらからじんわりと温もりが伝わる。

「何があったの?」
再度、詩織が問う。私は沈痛な面持ちのまま、ゆっくりと口を開く。胸がヒリヒリ痛い。話をするだけで胸が締めつけられる。
今、一瞬だけ止まったはずの涙が再び零れ落ちて、テーブルに丸いシミを作る。目の周囲は擦りすぎて真っ赤になっているだろう。その証拠にヒリヒリ痛んでいる。きっと腫れてしまう。明日は仕事が休みで良かった。

どうして日高さんよりも彼を好きな気持ちは強くないなんて思えたのだろう。
こんなにもこんなにも彼が好きなのに。
彼が私を好きな理由を知りたかったのは、私が本気で彼に恋をしてしまったから。離れたくなかったから。
完璧なあの人の隣にいられる自信が少しでもほしかったから。

どうしてもっと早くわからなかったの。なぜ私はあの人に恋をしてしまったのだろう。こんな結末になってしまうなら、出会いたくなかった。どうして私は姉じゃなかったんだろう。ううん、違う。姉になりたいのではなく、彼が恋い焦がれる唯一の人になりたかった。

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