エリート弁護士と婚前同居いたします
「……そっか。そんなことがあったんだ。目まぐるしい一日だったね」

そう、たった一日。
それで私の恋は完全に終わってしまった。
「ねえ、本当にそれで終わりなの?」
ポツリと詩織が言う。私はのろのろと視線を動かして彼女の顔を見た。彼女はほんの少し困った顔をしていた。

「上尾さんと話さなくていいの?」
「今さら何を話すの?」
オウム返しのように彼女に問う。
「だって誤解かもしれないでしょ? 今茜が私に話してくれたことは他人から聞いた話だし。上尾さんだって電話していたんだから、違う意味だったかもしれないじゃない」
私は小さくかぶりを振る。もうこれ以上傷つきたくない。

その時、テーブルに置きっぱなしになっていた詩織のスマートフォンが着信を告げた。この場の雰囲気にそぐわない明るい音が周囲に響く。
詩織が手を伸ばして着信画面を見る。そして無言で画面を押して私に差し出す。

「何……?」
嫌な予感がして手を伸ばせない。
『茜!』
スマートフォンから大きな声が響いた。どうやら詩織はスピーカー状態にしているようだ。
「お、お姉ちゃん?」
うろたえつつ、返事をする。
『茜! もうっ、何をしているの』

怒っているような口調なのに姉の声は優しい。私にとったらあまり嬉しくない状況だ。今は大好きな姉の声を聞くだけの余裕がない。ましてや話なんてできない。どうして詩織は私にこんなことをするのだろう。
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