エリート弁護士と婚前同居いたします
『アハハ! 嫌だ、茜ったら、何を言っているの!』
「お、お姉ちゃん?」

この場に不似合いな明るい笑い声が部屋中に響きわたる。話し終えた私は呆気にとられる。
『その日高さんの気持ちはさておき、上尾くんが私を好きなわけないじゃない!』
豪快に、あっけらかんと言い放つ姉。

「どうしてそんなことお姉ちゃんにわかるのよ!!」
八つ当たりだとわかっていながらも、つい大きな声が出る。
『それを言うなら、なぜ上尾くんの気持ちが茜にわかるのよ?』
グッと返答に詰まる。姉は穏やかな話し方をするのに、いつもこうして核心をついてくる。

『いいことを教えてあげる、茜。上尾くんはね、茜に同居話を持ちかけるずっと前から茜のことを知っていたのよ。同居話をあなたに持ちかける前に、うちの実家に挨拶に来てくれているわ。もちろん侑哉にも話をしに来てる』
どういうこと……?

「それってどういうことですか?」
まさに私が思っていたことを詩織が口にする。
『両親が未婚のあなたを見ず知らずの男性と同居させると思う? そんなことを許可すると思う?』
どこか面白そうに姉が言う。

「お姉ちゃん、何を知っているの?」
震える声で口にする。鼓動が速くなるのがわかる。
私が知らない何かがあるの? 
『ねえ、茜。あなたは誰を大切にしたいの? どうして今、彼と暮らしているの? 恋をするのに時間は関係ないって学んだばかりじゃなかったの? あなたが好きな人は誰なの? どうしてその人の言葉をきかないの?』

静かだけれど重みのある姉の言葉が胸に沁みる。
「でも私は朔くんに相応しくないっ!」
叫ぶように言う私に、姉の厳しい声が響く。
『それを決めるのは上尾くんよ。逃げずに彼ときちんと話しなさい』

姉はそれだけ言って、通話を切った。普段穏やかな人だけど、こういう時は容赦がない。
私を慰めたり、宥めたりはしない。
< 120 / 155 >

この作品をシェア

pagetop