エリート弁護士と婚前同居いたします
詩織がそんな私たちを見て苦笑しながら、片手を振り、マンションに戻っていく。しっかりしなさいよ、と言うかのように。
良識を総動員させたのか、朔くんが慌てて詩織に声をかける。

「……夜分にすみませんでした。連絡をくださってありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げた彼が意外だったのか、詩織は軽く目を見開いてほんの少し尖った声で応答する。

「大切な親友ですから。茜を任せるに値しないと判断した場合は、容赦なく引き離しますから覚悟してくださいね」
「絶対に彼女は手離しません。……俺の全身全霊をかけて幸せにします」
朔くんが真っ直ぐに詩織を見据えて、言い切る。

トクン、と鼓動が跳ねた。こんな状況だというのに彼に魅入ってしまう。
これは彼の本音なのだろうか。彼を信じたいのに信じきれない自分がいる。

「……お手並み拝見します」
彼の言葉に若干顔を赤らめながら詩織が答える。チラと私を見て柔らかく笑む。
「……詩織、ありがとう」
声をかけると詩織は頷いてマンション内に戻っていった。私の隣に立った彼は、詩織の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
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