エリート弁護士と婚前同居いたします
「……好きなんだ」

その声に滲む切なさに胸が震えた。彼に言われたなかで一番悲しさと不安を孕んだ告白。
朔くんが、恐がっている?

顔を上げ、背伸びをして彼の顔を見つめる。普段からは考えられないくらいに表情がない。まるで精一杯強がっている子どもみたいだ。その姿に胸が詰まって頭が冷えていく。

「……ごめんなさい、いなくなって」
素直に謝ると、彼の綺麗な目が微かに潤んだ。
「茜がいなくなったのは俺のせいだってわかってる。許さなくていいから、俺の話を聞いてほしい」
真摯な彼の声に私はこくんと頷く。

「一緒に来て」
私がまだいなくなると思っているのか、彼は私の右手をしっかり握ったまま歩き出す。大通りに出て彼はタクシーを捕まえ、私を先に乗せて自身も乗り込む。
「目黒駅前まで」

それだけ言って黙り込む。てっきり自宅に戻るのだと思っていた私は、少し驚いて彼を見る。
「着いたら話すから」
そう言われて私はただ静かな車内から流れていく夜の景色を見つめた。

タクシーを降りた場所は私がほぼ毎日利用している目黒の駅前。
どうしてこんな場所に?
夜の十一時半を過ぎたこの駅前に、それほど人はいない。ビルのネオンや街灯が歩道を明るく照らす。

眼前には私の勤務先が入っているビル。すぐ近くにはいつも利用しているカフェ。取り立てて特別な場所ではない。
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