エリート弁護士と婚前同居いたします
「そんな、それはその女性がその親子と知り合いだったからじゃ……」
思わず口を挟む私に彼が困ったように首を振って、笑った。

「俺は今までそれなりになんでもできたんだ。自慢話じゃないけど、器用だって言われてきた。進学も就職ももちろん努力はしたけれど、報われてきた」
彼は何を言いたいのだろう。先程の男の子の話となんの関りがあるのだろう。

「自分の仕事にも自信をもっていた。だけどこの時、両親の事務所に将来のことも見据えて、うつって来ないかと言われて迷っていた。今の事務所と両親の事務所とでは業務内容も違う。自分は何をしたいのか、迷っていた」
そう言った彼の表情は少し険しかった。まるで当時の心の葛藤をうつしているかのように。

「誰かの役にたつ人間になりたいと思って目指した職業だったのに、俺は目の前の、小さな少年すら救えなかった。目が覚めたような気分だったよ。自分はなんでもできるわけではなく、完璧ではないことを思い知った」
自嘲気味に話す彼。

「それは突然の出来事だったうえ、朔くんが子どもに慣れていなかっただけでしょ?  大袈裟だよ。誰だってすぐに反応できないことや苦手なことはあるよ」
弁護士業務と育児は全然違う。話が飛躍しすぎている気がする。なぜそこが比較対象になるのかよくわからない。私の困惑に気づいたのか、彼が苦笑する。

「違うんだ。上手く言えないけど……いつの間にか傲慢になっていた自分を思い知らされたんだ」
長い睫毛を伏せて彼が話を続ける。
< 126 / 155 >

この作品をシェア

pagetop