エリート弁護士と婚前同居いたします
「わかってる。でも茜の裏表のない笑顔は俺の胸を一気に占領した。俺にないものを持っている茜が眩しくて仕方なかった」
懐かしそうに彼は綺麗な目を細めた。

「か、買いかぶりすぎだよ。誰にだってできる普通のことだから」
慌てる私。彼は私を美化しすぎている。私はそんなに立派な人間じゃない。
彼はゆっくり首を横に振る。

「そうかもしれない。でもあの時、あの場所で、それを当たり前のようにできたのは茜だけだった。茜だけが俺を助けてくれた、俺にはできなかったことを茜は自然にできる。それは茜の魅力だよ」
どこまでも彼は私を大仰に褒めてくれる。
「助けるなんて大袈裟だよ」

 そんなにたいしたことじゃない。本当にただの偶然だ。
「茜には些細なことかもしれないけど、俺には衝撃的な出会いだったんだ」
彼はそう言って微笑んだ。

「茜は俺に欠けているものを教えてくれる。一緒にいるととても温かくて幸せな、満たされた気持ちになるんだ。そんな人は俺の周りに今までいなかった」
彼の真摯な声が胸の奥に沁み込んでいく。

「俺が茜を好きな明確な理由はないんだ。あの瞬間、俺は恋に落ちて、今も茜の全てが大切で愛しいから」
飾り気のない真っ直ぐな言葉が私に降り注ぐ。

「茜はわざわざ予備の絆創膏まで俺にくれた。それから明るく手を振ってあのビルに入っていった」
朔くんは私の勤務先があるビルを視線で示した。
< 130 / 155 >

この作品をシェア

pagetop