エリート弁護士と婚前同居いたします
「その後、俺は必死で茜を探したんだ。佐田にも事情を話して協力してもらった」

焦げ茶色の瞳に強い光が宿る。ギュッと私の手を握って、彼は話してくれた。佐田さんと初めて会った時、すぐに名前を呼ばれた理由がわかった。

私が着用していた制服から勤務先が病院関係だと思ったこと。ビルのテナントを確認して私の勤務先に辿り着き、そこに貴島先生が偶然にも勤務していたこと。
貴島先生に事情を話し、頭を下げて頼み込んで、やっと私の名前を知ったこと。先生に散々釘を刺されたこと。

「誠一はお前を妹のように大切に思っているから。傷つけたり中途半端に扱ったら許さない、覚悟を決めてこいって言われた。もちろん躊躇わなかったけど」
彼の言葉に胸が締めつけられる。私の知らない場所で起こっていた出来事。そんなことがあったなんて、全然知らなかった。

「誠一にお前に近付くことをやっと認めてもらえて、検診に通った。クリニックで茜を見た時は胸が震えた。心底この人の特別になりたいと願ったんだ。そんな気持ちは初めてだった」
切なさの滲む目は微かに潤んでいた。ほんのり色香をまとう彼の眼差しを直視できない。カアッと頬に熱がこもる。

「情けないことに、何を話せばいいかわからなかった。顔を見ただけで胸がいっぱいになるって言葉の意味を初めて知ったよ。お前といると、俺は今まで知らなかった自分に出会うんだ」
穏やかな声が夜気を震わせる。真摯な彼の言葉が胸をうつ。

「茜は俺のことなんて見向きもしないで自分の仕事をこなしていて、拍子抜けしたけど」
クックッと楽しそうに彼が笑む。
うう、そんなことすら全く覚えていない。受付業務なのに、視線に気づかないってどうなの! 瑠衣ちゃんに鈍いって怒られる理由がわかる……。
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