エリート弁護士と婚前同居いたします
「ご、ごめんなさい……」
「いや、茜は余所見せず仕事をしていた。その姿に俺は自分が間違えていないと確信したから」

思わず瞬きを繰り返す。それのどこが魅力的なんだろう。
「周囲に一方的に決めつけられて騒がれたり、過度に期待されることには慣れてるから」
浮かべる寂しそうな微笑み。

ああ、そうか。それが必ずしも幸せではないことをこの人は知っているんだ。彼はずっとそういうこととも闘ってきたんだ。
見惚れてしまうほどの秀麗な外見も優秀すぎる頭脳も、そんな勝手な物差しではかられてきたのかもしれない。彼には苦しい時があったのかもしれない。この人の最大の強みで最大の弱味だったのかもしれない。

「あの日、もう一度俺は茜に恋をした。俺はそれからずっと恋に落ち続けている」

ザアッと再び強い風が吹いた。何もかもを吹き飛ばすような勢いに頭が冴えていく。
彼は検診に通うようになり、しばらくして私に告白をしようと考えていたらしい。ところが侑哉お兄ちゃんと姉の結婚話が持ち上がり、私が急遽同居相手を探すことになった。

それは彼にとって寝耳に水で、渡りに船の出来事だった。この機を逃す手はないと思い、物件を探し、私の両親や侑哉お兄ちゃんにも協力をあおぎ、私との同棲にこぎつけた。それからは私の知っている通りだ。

ということは、私は知らず知らずの間に外堀を埋められて、彼の策略にまんまとはまっているのでは……それってどうなの?
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