エリート弁護士と婚前同居いたします
「……お姉ちゃんのことは?  好きだったんじゃないの?」
まだ懸念事項は残っているとばかりに、彼に尋ねる。

「まさか、誤解だ! 侑哉と茜のお姉さんは俺の憧れだったんだよ」
「どういうこと?」
 思わず首を傾げて聞き返す。

「あのふたりはどんな時も一緒でお互いをよく理解していて、支えあっていた。当然のように一緒にいる姿が何よりも自然で。俺もずっとそんな唯一無二の相手を探していたんだ」
柔らかな笑顔を浮かべる彼が、嘘をついているようには思えない。そう言えば姉も朔くんが姉を好きかもしれないと私が言った時、豪快に笑い飛ばしていた。

「……お姉ちゃんを好きだったから、私を好きだと言ったんじゃないの? 私は身代わりじゃないの……?」
震える声で彼に問う。胸が痛い。彼の反応が怖い。正直な気持ちを聞かせてほしいけど、聞く覚悟ができない。

彼は綺麗な目を驚いたように見開く。それからとても険しい表情をして、私を威嚇するように睨み付けた。
「そんなわけないだろ! 第一俺が茜に恋をした時、香月さんの妹だなんて知らなかったんだから。信じられないなら誠一に今、電話して確かめて……」
そう言って、彼はスマートフォンを上着の胸ポケットから取り出す。

「ちょ、ちょっと待って!」
必死で止める。こんな時間に貴島先生を巻き込むわけにはいかない。
「……本当に私は身代わりじゃないの……?」
彼の腕に触れる。
トクントクントクン。幾分早めの鼓動が波打つ。

「茜の代わりなんてどこにもいないよ。お前だけが好きなんだ」
妖婉さをたたえた眼差しが真っ直ぐ私に降り注がれる。
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