エリート弁護士と婚前同居いたします
私たちの間に流れる穏やかな空気。最初はあんなにも一緒に過ごすことが嫌で、対立して緊張していたことが信じられない。今は何気ない時間がとても愛しい。

「……日高と帰りに話をしたよ」
少し言いにくそうに彼が軽く眉間に皺を寄せる。

彼が今朝出勤する前にそのことは聞いていた。日高さんにきちんと話をすると。彼は日高さんの行為が許せないようだった。

けれど、私には彼女のやるせない想いが嫌というほどわかった。同じ人を好きになったからだけではなく、昨夜私が経験した想いがあったから。好きでたまらない人が自分に想いを向けてくれない苦しさ、寂寥感。 仕方がないことだとわかっていても理解できない切ない想い。
誰かを想う気持ちは無理矢理かえることも押し殺すこともできない。どうしてこの人に愛されるのが自分ではないのかと自問自答を繰り返す。

朔くんが私のために怒ってくれることは嬉しいけれど、彼女の気持ちも理解してあげてほしかった。そのため、彼女を詰ったり、一方的に責めないでほしいとお願いした。彼は怒りと悲しみ、戸惑いが混じった複雑な表情をしながら渋々納得してくれた。ただし今後、私に付きまとうことは許さないし、私を罵倒していい加減な話をしたことは謝罪してもらうと言って、そこは譲らなかった。けれど自分自身も過去に彼女を不用意に傷つけたことは謝罪したいと言っていた。
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