エリート弁護士と婚前同居いたします
「なんでいきなりあんなこと言ったんですか?」
彼の態度がイラ立たしくてキツイ口調で彼に問う。
「おい、朔! お前まさか!」
 貴島先生が慌てて上尾さんに問う。

「あんなことって、一緒に暮らそうって言ったこと?」
彼が淡々とした声で返事をする。その声に動揺は感じられない。
貴島先生が上尾さんの傍らで額に手をあてて、お手上げと言わんばかりに頭上を見上げている。

「冗談にしては度がすぎます。私は本気で悩んでいるんです!」
彼の平然とした態度にますます頭に血が上る。
「俺も本気で言ったんだけど?」
 口角を上げてどこか面白そうな笑みを浮かべて、彼が言葉を返す。
「ば、馬鹿にしないでください!」
思わずキツイ声がでてしまう。
「へえ、香月さんは怒るとそんな感じなんだ。初めて見た」
余裕のある、見当違いの返事が腹立たしい。
「朔、やめろ。いきなり突拍子もないことを言うお前が悪い。茜ちゃんをからかうな。まずは俺から説明するって言ってただろ」
 慌てて先生が仲裁に入る。彼は片眉をあげて、黙った。悔しいことにそんな仕草すら絵になっている。

「茜さん、そろそろ戻らないとまずいですよ」
 どんな時も冷静な瑠衣ちゃんがこの場の雰囲気をとりなすように、腕時計に視線を落として言う。
 慌てて私も自身の革ベルトの腕時計を見ると、後、十分ほどで休憩時間が終わる。
「……申し訳ないですけど休憩が終わるので」
 同居話を無視して、とにかくこの場から去ろうと決意する。これ以上周囲から注目を浴びたくないし、遅刻するのも困る。
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