エリート弁護士と婚前同居いたします
季節は巡り冬になった。
十二月に入り、夏の暑さもすっかり遠のき、寒さに身を縮まらせる日が続いている。街行く人は分厚い防寒着に身を包み足早に歩いている。気の早いクリスマスのディスプレイが色鮮やかに街並みを彩っている。今年は寒い冬になるらしく、今月に入って何度も粉雪が舞っている。

私と朔くんは相変わらず一緒に暮らしている。彼は現在の事務所を退職し、最近ご両親の経営する弁護士事務所に異動することを決意したらしく、今はその調整で以前よりも忙しく動いている。
私はいつものように出勤し、仕事をこなす。

現在午後六時すぎ。
患者さんの波が一息きれて、奥にある物置きに備品を運んでいる時、廊下で貴島先生に会った。
「お疲れ様、朔の予約は七時だったよね?」
いつもと変わらない、人を安心させる柔和な笑顔。
「そうです」
私も笑顔で返す。今日は朔くんが検診に来る日だ。

「長年親友だけど、アイツに頼みごとをされたのは初めてだったんだ。朔は基本的にひとりでなんでも抱えてこなそうとするからさ。出来ることも出来ないことも」
唐突に、まるで世間話をするかのように話し出す先生。けれどその目は真剣だった。
「……先生?」
感じるほんの少しの違和感。
「アイツは茜ちゃんに出会って、悪い癖が少し抜けてきた気がする。人に頼ることを覚えた」
職場では決して呼ばない呼称で先生が私を呼ぶ。


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