エリート弁護士と婚前同居いたします
クリニックを出ていく彼を見送って私は瑠衣ちゃんと後片付けをする。
「いいですよ、今日くらい。上尾さん、待ってらっしゃるんですよね? 早く行ってください」
瑠衣ちゃんが気を利かせてくれる。
「ううん。仕事はちゃんとするよ。でも、ありがとね」
火照った頰を片手で隠して、早く帰りたい気持ちをおさえながら返答する。

さっき話したばかりなのに、もう会いたくてたまらない。朔くんと一緒にいるといつもそうだ。彼の一挙一動に目を奪われる。彼の声に五感が研ぎ澄まされる。
こんなにもこの人に惹き付けられると出会った頃は思わなかった。

たった数カ月という短い時間で彼は私を変えた。ううん、私の恋への認識を変えた。
自分の気持ちを相手にぶつける度に少し距離をとられたり、うまくコミュニケーションがとれなくなりがちだった私に、全力でぶつかるよう後押ししてくれた。ぶつかっていいんだと諭してくれた。そして私をまるごと受け入れてくれた。

それなりに何人かの男性と交際をしてきた身としては、それがどれだけ幸運なことかよくわかっている。ありのままの自分を晒せる人に出会えて、かつその人と想いを通わせることができるなんて奇跡に近い。
大好きな人に自分を認めてもらえることの幸せを彼は私に教えてくれた。彼のことを想うと胸が熱くなって、優しい気持ちが込み上げる。

「真面目ですね、茜さん。じゃあ早く終わらせましょう」
可愛らしい笑顔で言う瑠衣ちゃんに頷く。いつも以上に瑠衣ちゃんが頑張ってくれたおかげで、片付けも早く終わり私は急いで更衣室に向かう。手早く着替えを済ませ、備え付けの鏡で化粧を直して身だしなみを整える。

「瑠衣ちゃん、ごめん。先にでるね!」
慌ただしく声をかけると瑠衣ちゃんは了解です、と笑って見送ってくれた。やっぱりどこまでもできた後輩だ。
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