エリート弁護士と婚前同居いたします

ブーッ、ブーッ、ブーッ。

　慌てて買物袋をサッカー台に置いて、バッグの中を漁るけれど間に合わず振動は止んでしまった。職場からかもしれないとバッグの中でスマートフォンを探す。すると再びスマートフォンが振動し始める。
　慌てていたせいか手に取った拍子に通話状態にしてしまった。つかんだスマートフォンが表示しているのは知らない番号。

　誰？　
　小首を傾げながら恐る恐るスマートフォンを耳にあてる。
「も、もしもし……」
『なんで連絡してこない？』
　耳にあてたスマートフォンから聞こえてくる少し怒ったような男性の声。
　名乗ることもせず、ただ用件を真っ直ぐにぶつけてくる。

　この声って……。
　思い当たる人はひとりしかいない。
「う、上尾さん……？」
　恐る恐る、声の主を確認するように名前を呼ぶ。
『当たり前だろ』
　素っ気なく返される。
　周囲のざわめきで彼の声が聞こえにくく、私は買物袋を提げてスーパーを急いで出た。

「な、なんで……」
　どうして彼は私の電話番号を知っているの？
『なんでって何が？』
「私の電話番号！」
　叫ぶように言ってしまってからカアッと頰が熱くなるのがわかった。私は何をむきになっているんだろう。
『誠一に教えてもらった』
　貴島先生！　どうして勝手に私の連絡先を教えているのよ！　
　先生の穏やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。

『俺、連絡しろって言わなかった？』
　私の困惑を知ってか知らずか、彼は一方的に話を続ける。