エリート弁護士と婚前同居いたします
「だからどうして私の家を知っているんですか! しかもなんで入ろうとしてるんですか!?」

 自宅の玄関先でさっきから彼と押し問答を繰り返す。
「誠一に聞いたから。荷物を部屋に入れたいから」
 律義に上尾さんが理由をいちいち答える。それもなんだか癪にさわる。
 もう、貴島先生! 私の個人情報をなんだと思ってるの! 絶対に許さない!
 本日何度目かわからない悪態を、ここにはいない先生に向かってつく。

 見慣れた自宅マンションが見えてきて、彼にそれとなくもうひとりで帰れるから、と言い続け、手も離してほしいと訴え続けた。
 それなのにこの人は私の意見に一切聞く耳をもたない。そもそも来たこともないはずなのに迷うことなく辿りつくってどういうことなの?

「あのですね、いくら貴島先生と侑哉お兄ちゃんの友人とはいえ、こんな時間に彼氏でも家族でもない男性を女性の部屋にいれるわけないでしょ!」
 倫理観を逆手にとって勝ち誇ったように言う私より、彼の方が上手だった。

「俺が信じられないのか?」
 痛いところをついてくる彼に二の句が告げない。信じられないに決まっている。けれどここで彼を追い出したら私がこの人を男性として意識しているって言っているようなものだ。それは悔しい。

「に、荷物を置いたらす、すぐに帰ってください!」
できるだけ平静を装って言う。念のため、玄関ドアは開け放して彼を家に上げる。せめてもの防御と抵抗だ。
「はいはい」
 そう言って、彼は玄関脇に荷物を置くと廊下に出た。私も玄関ドアを閉めて廊下に出る。そんな私を見て彼はクックッとなぜか面白そうに笑う。

「警戒しすぎ」
 幸いにも外廊下にはほかの住人の姿はない。とはいえ、共用部分でこれ以上大声をあげることはできず、玄関ドアを背にした私は悔しまぎれに彼を睨む。
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