エリート弁護士と婚前同居いたします
「話はそれだけだから。失礼します」
 暗に早く帰ってくれるように促しながら、玄関の鍵をバッグから取り出す。

「……じゃあなんで今日一日、俺からの電話にでないの?」
 真剣な表情で彼が私を見る。
「気づかなかったわけ、ないよな? 何回もかけたし、さっき香月は誰かと電話してたんだからスマホを見なかったわけじゃない」
 コツ、と彼が足音をたてて私に近付く。チョコレート色の綺麗な瞳には妖しい光が宿る。あっという間に距離を詰めて私の目を覗きこむ。

「怒っていないなら、なんで無視をする? なんで嘘をつく?」
 声はどこまでも優しいのに、まるで詰問するかのような口調。ゾクッと背中が粟立つ。
 妖艶すぎる微笑みを浮かべながら、彼が私の髪をいたずらにひと房掬う。
「あ、あとで電話をするつもりでした!」
苦しまぎれの言い訳をする。嘘だ。電話をかけ直すつもりなんてなかった。
 つかんだ私の髪にそっと唇を寄せながら、彼が甘い声で言う。

「嘘をつくならもっとうまくつけば?」
 その仕草と言葉にカアッと頰が火照る。それは羞恥なのか怒りのせいなのかわからない。
「怒っていないので私のことは放っておいてください。どうしてそんなに私に構うの!?」
 嚙みつくように言うと、彼がニッコリと艶やかな笑みをこぼす。

「好きだからだよ、お前が」

 今、なんて? 好き?
 わけがわからずに身体も思考も固まる。
 何を言っているの?
「冗談、でしょ……?」
 信じられずに呟く私の声に上尾さんの声が被さる。

「本気。俺はお前が好きだよ」
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