エリート弁護士と婚前同居いたします
彼の住居は現在私が住んでいるこの家よりも驚くほど豪華で、私にとても都合のいい条件だ。けれど一番気になる家賃については一切記載がない。
ううん! 私ったら何を考えているの。同居するつもりはないんだから!

「知らない。でもそんな好条件の場所、家賃が高そう。私には払えない」
 ぶっきらぼうに言うと姉がまたお茶を飲む。
「上尾くんに聞いて交渉したらいいじゃない。上尾くんが誘ってくれたんだから」
 何を言っているの、と言わんばかりに姉がうつむいたままの私を見て言う。

「ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん! 上尾さんとの同居に反対じゃないの!? 全然知らない人なんだよ!」
 顔を上げて焦って言う私に姉が真顔で言う。
「反対してほしいの?」
グッと言葉に詰まる。
私はどうしたいの? 
でも姉は反対してくれると思っていたのは確かだ。

「茜、迷ってるんじゃないの? だから私に相談してきたり、上尾くんのこと聞いてくるんでしょ? 茜の性格ならありえないって思ったらすぐ断るでしょ」
私のことはなんでもお見通しの姉があっさり言い放つ。姉の言葉に言い返すことができない。
「それにしても上尾くん、多忙なはずなのに、わざわざこんな資料を作成してくるなんて、律義と言うか真面目というか……これすごく時間がかかったんじゃないかしら?」

クリアファイルに再び視線を落としながら、姉が独り言のように呟く。
「……そんなに忙しいの、あの人?」
ポツリと呟いた私に姉が私の顔を見て微笑む。
「彼、大学在学中に司法試験に合格したって同級生の間では有名なのよ。しかも就職先は誰もが目指す、超難関大手の法律事務所。肩たたきが二年目からはじまると言われている精鋭ぞろいの社会の中で生き抜いてきたエリートの敏腕弁護士だって侑哉が言ってたもの」

司法試験に学生で合格って! どれだけ優秀なの……!
もうその時点で私とは住む世界が違う人だ。
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