エリート弁護士と婚前同居いたします
「ふふ、仲良しですね。じゃあ私はこれで。茜さん、お疲れ様でした」
「る、瑠衣ちゃん!」

 追いかけようとする私の左手首をグッと彼がつかむ。
「お前はこっち」
 優しい声でそう言って彼が私の左手の指を絡めて繋ぐ。

 ドキン、と鼓動が跳ねた。スーツ姿の彼を見るのは初めてではないのに、なぜか胸が落ち着かない。周囲の人の、主に女性の視線がなおも上尾さんに集中しているように思える。
「ちょっと待って!」
 いきなりの近い距離と手の温もりに恥ずかしさと戸惑いを覚え、抗議しようと彼に顔を向ける。

「何?」
 さら、と焦げ茶色の髪が揺れた。その甘さを含んだ瞳に言葉が出なくなる。
 どうしてそんな優しい声を出すの? どうしてそんな目で私を見るの? 

「香月?」
 名前を呼ばれてキュウッと胸の奥が疼いた。
 こんなのおかしい。どうしてこの人にこんな気持ちを抱くの。
「な、なんでもない。どうして、ここにいるの……?」
 サッと視線を逸らして無愛想に尋ねる。
「お前に今朝連絡もらったから迎えにきたんだよ。何回も電話したのにでないから」
 上着の胸ポケットからスマートフォンを取り出す彼。


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