エリート弁護士と婚前同居いたします
「どうぞ、入って」
「お、お邪魔します……」

 すっかり気おくれしている私は、おずおずと玄関に足を進める。高級感漂うグリーンかかった石材の玄関は驚くほど広い。用意されたスリッパに足を入れる。
 私の背後から入って来た上尾さんはドアを閉めて施錠する。どうしていいかわからずに私は廊下の端っこで立ち尽くす。

「中に入って」
 彼が靴を脱ぎながら苦笑する。
「そう言われても自分の家じゃないし、勝手にはできません」
 小さな声で反論すると彼に鼻をつままれた。
「い、痛い!」
 思わず鼻を押さえると、彼の拗ねたような顔が眼前にあった。

「これからはお前の家になるだろ」
 ぶっきらぼうに言って、彼は廊下の照明をつけて前を歩いていく。
 まさかそんなことで拗ねてるの?
 鼻を押さえながら私はなぜかおかしくなってクスッと笑んだ。
 知り合って間もない人なのに、一緒に過ごすことがなんだか楽しい。
 彼の後を追いかけた廊下の先に広がるリビングはとても広く、角をぐるっと取り囲む一面のガラス窓からは綺麗な夜景がみえた。その豪華さにやはり足がすくみそうになる。

 ここ、家賃いくらするの……! そもそもここって賃貸? 無理、私に支払えそうにない……。
 私の考えを読んだのか、キッチンから出てきた彼が話しかける。
「気に入った?」
「き、気に入ったとかではなく……豪華すぎるんですけど」

 L字型ソファの前に置かれた、楕円形のガラスのセンターテーブルの上に彼がアイスコーヒーを置いてくれた。家具のひとつひとつはシンプルだけど、とても品がよいものばかりだ。きっと私が推測する以上に高級なものだろう。彼は私の目の前まで歩いてきた。
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