エリート弁護士と婚前同居いたします
「なんで? 何が気に入らない?」
私の顔を覗きこむ彼。
「まさか! 豪華すぎてあの、私には場違いっていうか。家賃も支払えそうにないし、綺麗すぎて家事音痴に近い私がどうにかできそうな場所ではないです」
 しどろもどろになって話す私に、彼がブハッと噴き出した。

「お前、心配するところそこなの? 家事音痴って! だからここを選んだんだよ。コンシュエルジュさんもいてくれるし何かあったら助けてくれる人もいる。家事代行サービスだって頼めるし。なんの問題もない。それに俺はお前から家賃をもらうつもりはないから」
私を理解してくれていることはわかるけど、なんだかもの凄く失礼な言い方をされてるような気もする。
「な、何言ってるんですか! 住まわせてもらうのに家賃を支払わないのは無理です! 同居にならないでしょ!」
 上尾さんの端正な顔を挑むように見つめて、キツイ口調で言い返す。

「本当、頑固……」
 彼は長い指でクシャッと自身の髪をかきあげる。
 頑固なのはあなたでしょ!
 心の中で悪態をつく。

「わかった、じゃあ同居はやめよう」
 凄艶な笑みを浮かべて彼が私の髪に触れて、毛先をそっと弄ぶ。その近すぎる距離に腰がひける。けれど髪をつかまれていて動けない。彼の綺麗なチョコレート色の瞳から目が離せなくなる。

「同棲しよう」
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