エリート弁護士と婚前同居いたします
夜も遅いし泊って行けば、もしくは食事を一緒に、という彼を振り切って私は帰宅することを選んだ。けれど車で自宅まで送るという点だけは頑として譲ってもらえず、私は今、彼が運転する車の助手席に座っている。
 地下駐車場に停められたピカピカの濃紺のSUV。ひとめで高級な外車だとわかる。当たり前だけど初めて見る彼の運転する姿。スーツ姿のまま私を送ってくれる彼に、ほんの少しの申し訳なさを感じる。

「上尾さんって弁護士ですよね?」
 ふいに尋ねた私に彼が小さく笑う。
「何、急に?」
 前を見つめたまま彼が言う。笑われている理由がわからず私はキョトンとする。
「えっと、貴島先生がそうおっしゃっていたなあって思って」
「ああ、なるほど。同棲相手の職業確認?」
 クックッと相変わらずおかしそうに彼は笑う。

「違う。朝早いんじゃないかなって。なのに送ってもらってるから」
 ぶっきらぼうな口調になってしまう。
「そこ? 仕事の内容とか年収じゃなくて?」
 面白そうに彼は返答する。
「仕事の内容は第三者の私が聞かないほうがいいでしょ。年収とかは興味ない」
 憮然としてそう言うと、彼がアハハと大きな声で笑った。
「大抵の女は一番先にそこに興味をもつよ」
「一般的じゃなくて悪かったですね」

 頰を膨らませて抗議すると、信号で停止した彼が私の方をじっと見た。
「いや、お前のそういうところが好きなんだよ」

 またその台詞。もう、今日何回私に好きって言うのよ……! いちいち私が反応すると思ったら大間違いなんだからね!
 膝に置いたバッグをギュウッと抱えると上尾さんがまたクックッと笑う。
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