エリート弁護士と婚前同居いたします
「やっぱり可愛いな」
 独りごとのように呟く彼。

「か、可愛くないから!」
カアッと顔が赤くなる。
「可愛いよ、もっと早くに出会いたかった」
 真剣な表情で彼が私を見つめる。その台詞に息を呑む。
「そ、そんないきなり何を……」
 ああもう、本当にこの人の考えていることは読めない。

 それから彼はポン、と私の頭ひと撫でし、クスクス笑いながら、車を発車させた。居心地の悪さもあり、マンション前の街灯の下で車を停めた彼を見ずに、私はシートベルトを外して窓の方を向く。
「……送ってくれてありがとう」
 小さな声でお礼を告げる私を、彼の腕が引き留めた。

「こっち向いて」
 つかまれた私の右腕から彼の体温がじんわりと伝わる。優しさに満ちた声が響く。
「もう笑わないから」
その声に私は振り返った。
 綺麗な焦げ茶色の瞳が私をじっと見つめている。ふわ、と彼が目を細めた。
ドキンドキンドキン、鼓動が壊れそうなくらいに速いリズムを刻みだす。
 無意識に私の右腕をつかむ彼の腕にそっと触れる。ビクリと彼が腕を動かす。ふうと大きく彼が息を吐いた。

 真っ直ぐな焦げ茶色の瞳が私を射抜く。
 ドクン……! 一際鼓動が大きく鳴った。
「ああ、あのっ。同居の話はきちんと前向きに考えるから」
誤魔化すように早口で言う。
「前向きも何も、もう決定事項だから。あと、同居じゃなくて同棲。誰かに訊かれたらそう答えて」
ほんの少し不機嫌な顔をして彼が言う。
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