エリート弁護士と婚前同居いたします
決定事項? どういうこと?

「お前、メールしてきただろ。お願いしますって。もうお前に拒否権はない」
 フッと口角を上げて意地悪そうに笑う。
「えっ、ちょ、ちょっと待って! あれは細かい話を教えてもらってからっていう意味なんだけど!」
 焦る私。
「無理。撤回も言い訳も受け付けないから、お前はさっさっと引っ越し準備をしろよ?」
 嫌になるくらい眩い笑顔で彼が私に指示をする。

「そんなの卑怯! しかも同棲じゃない!」
 本気で慌てて反論する。そんな私に彼の美麗な顔がグッと近付く。
「あんまり拒否するなら無理やりさらうよ?」
 そう言って朔は綺麗な顔をそっと傾ける。離れなくちゃいけないのに妖艶な焦げ茶色の瞳に魅入られて動けなくなる。

 その瞬間、そっと彼の唇が一瞬私に重なった。
 ドキン! 心臓が壊れそうな音をたてた。彼に聞こえてしまいそう。
 頭の中が真っ白になる。彼の伏せられた長い睫毛が秀麗な顔立ちに影をつくっている。柔らかな感触が身体中に伝わる。触れられた唇が熱い。

 ちょっと待って、私この人とキスしてるの? どうして? この人のことなんて好きじゃない。強引で偉そうで人の話を全く聞かない。なのにどうしてこんなにドキドキするの?
 傲慢な言い方とは裏腹に、私の頰に触れる指はとても優しい。
 こんなのおかしい。そっと唇を離した彼は私の身体を大切そうに抱きしめた。

「好きだ、茜」

 真摯な声が耳朶を震わせる。
 身体に一気に熱がこもる。彼の言葉が私の心を乱す。

「なんでキス……!!」
 動揺のあまり切れ切れに話す私とは対照的に彼はとても落ち着いていた。もがく私をなだめるように抱きしめる。
 怒りたいのかショックなのか自分の気持ちが見えない。
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