エリート弁護士と婚前同居いたします
「でもそれだと朔くんが不便でしょ?」
布巾をキッチンに持っていきながら私が言うと、朔くんがポンと私の頭を撫でた。
「お前は女だろ。万が一俺と連絡がつかなかった場合、夜ひとりで外にいるのは危ない。俺はセンサーのついてないスペアを使うから」
当たり前のように彼が言う。その過保護すぎる発言に驚く。
「大丈夫だよ! 私もう大人だし、自分の身くらい自分で守れるって! 心配しすぎ……」
その途端、シンクを背にして立つ私の身体がトンと後ろに傾いだ。私の両脇を朔くんの長い両腕が囲う。
「……へえ、これでも?」
恐いくらいに低い声で彼が言う。グッと朔くんの端正な顔が近付く。
ドキンドキンドキン、落ち着いていたはずの鼓動が暴れ始める。心臓の音がうるさい。
この状況についていけず、彼を見つめ返す。
「そんな不安そうな目で見つめても、何も状況は変わらない」
淡々と朔くんが冷静に言う。トン、と彼が私の左肩に頭を置く。
「お前は女なんだ。俺たち男から見たら非力なんだよ。肩も腕もこんなに細いだろ。頼むからそのことを理解してくれ」
その声がまるで泣いているようで、胸がキュウッと締めつけられた。そんな言い方をするなんて、本当にこの人はズルイ。
こくん、と黙ったまま頷く私に朔くんが小さく息を吐いた。
「わかったならいいよ」
そう言って彼は私を腕の中から解放した。慌てて距離をとる私に彼が不機嫌さを露わにする。
「なんで逃げる?」
「逃げてません! 自己防衛! 部屋の片づけの続きをしたいだけ!」
それだけ言ってパッと私は踵を返す。顔が熱い。クスクスと彼の面白がるような笑い声が背中から聞こえる。
キッチンを走るように抜け出して、自室に入りこむ。
バタン、とドアを背にしてずるずると床に座りこんだ。どうしていいかわからない。朔くんにペースを持っていかれてしまっている。
彼はただの同居人なのに。一緒にいると緊張して、ドキドキしてしまう。
この気持ちの正体がわからない。このまま飛び込んでしまっていいのかわからない。
彼の本心がよくわからない。少しずつ知っていけばいいと言うけれど、朔くんは私に気持ちを色んな方法で伝えてくる。そのことに戸惑ってしまう。わからないことだらけだ。
布巾をキッチンに持っていきながら私が言うと、朔くんがポンと私の頭を撫でた。
「お前は女だろ。万が一俺と連絡がつかなかった場合、夜ひとりで外にいるのは危ない。俺はセンサーのついてないスペアを使うから」
当たり前のように彼が言う。その過保護すぎる発言に驚く。
「大丈夫だよ! 私もう大人だし、自分の身くらい自分で守れるって! 心配しすぎ……」
その途端、シンクを背にして立つ私の身体がトンと後ろに傾いだ。私の両脇を朔くんの長い両腕が囲う。
「……へえ、これでも?」
恐いくらいに低い声で彼が言う。グッと朔くんの端正な顔が近付く。
ドキンドキンドキン、落ち着いていたはずの鼓動が暴れ始める。心臓の音がうるさい。
この状況についていけず、彼を見つめ返す。
「そんな不安そうな目で見つめても、何も状況は変わらない」
淡々と朔くんが冷静に言う。トン、と彼が私の左肩に頭を置く。
「お前は女なんだ。俺たち男から見たら非力なんだよ。肩も腕もこんなに細いだろ。頼むからそのことを理解してくれ」
その声がまるで泣いているようで、胸がキュウッと締めつけられた。そんな言い方をするなんて、本当にこの人はズルイ。
こくん、と黙ったまま頷く私に朔くんが小さく息を吐いた。
「わかったならいいよ」
そう言って彼は私を腕の中から解放した。慌てて距離をとる私に彼が不機嫌さを露わにする。
「なんで逃げる?」
「逃げてません! 自己防衛! 部屋の片づけの続きをしたいだけ!」
それだけ言ってパッと私は踵を返す。顔が熱い。クスクスと彼の面白がるような笑い声が背中から聞こえる。
キッチンを走るように抜け出して、自室に入りこむ。
バタン、とドアを背にしてずるずると床に座りこんだ。どうしていいかわからない。朔くんにペースを持っていかれてしまっている。
彼はただの同居人なのに。一緒にいると緊張して、ドキドキしてしまう。
この気持ちの正体がわからない。このまま飛び込んでしまっていいのかわからない。
彼の本心がよくわからない。少しずつ知っていけばいいと言うけれど、朔くんは私に気持ちを色んな方法で伝えてくる。そのことに戸惑ってしまう。わからないことだらけだ。