エリート弁護士と婚前同居いたします
「惚気ですか?」
 可愛い顔に不機嫌さを漂わせながら、瑠衣ちゃんが冷たく言い放つ。

「違うから! 本当に困ってるの!」
 必死に否定して打ち消す。
「そうは見えないですけど」
 冷静な後輩。
 恥ずかしい、とは思った。だけど絶対に言いたくないとは思わなかった。

『大好き』という言葉は本当に大切な気持ちをあらわす言葉だ。誰にでもむやみやたらに言えるものではない。しかもこの年齢になって言える人なんて限られてくる。そんなことは百も承知だ。
 たとえ条件で出されたとしても言いたくない相手にきっと私は言えない。だけど、朔くんには言えた。それはどうしてだろう?

 コトン、と胸の奥で何かが音をたてて動いた気がした。
 私、朔くんが好きなの?
 親愛、とかじゃなくて。
 出会って半年も経っていないのに?
 まさか、そんなことありえない。あるはずがない。

 湧きあがる気持ちに呆然として、必死で否定する。
 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、瑠衣ちゃんが淡々と言葉を紡ぐ。

「茜さん、上尾さんって極上のイケメンエリートだってわかってます? 上尾さんはモテモテなんですよ! ここはもうさっさと気持ちを伝えないとほかの女に奪われます!」 
 鼻息荒く言う瑠衣ちゃんに私は曖昧に微笑む。
「いや、奪われるも何も……」
 彼は私のものではない、と言おうとした言葉を彼女に遮られる。

「茜さんだって恋愛スキルはないですけど、意外にもててるんですから!」
 私の顔を覗きこみながら瑠衣ちゃんが言う。褒めてくれているのだろうか。
「もててない」
 拗ねるように言うと呆れたように瑠衣ちゃんが言う。
「そんなことは聞いてません。とにかくみすみすほかの女子に奪われないようにしなきゃいけないってことを言いたいんです!」
 瑠衣ちゃんの気迫に圧倒されながら、私は小さく溜め息をついた。
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