エリート弁護士と婚前同居いたします
ポーンと場に不似合いな明るい音を立てて、エレベーターの扉が開く。今では見慣れてしまった廊下が目に入る。

 彼はガチャリと玄関ドアを開けて私をグイッと中に引き入れた。私の背中でバタンとドアが閉まる。足がもつれて倒れそうになった私は彼の引き締まった胸にトン、と受けとめられた。彼の腕が私の腰に巻きつく。

「……もう一回言って」
 不機嫌ともとれる低い声で彼が言う。
「え、何を?」
 問われていることがわからずに戸惑う。

「さっき言ったこと、もう一回言って」
 焦れたように彼が言う。長い指を私の顎にかけて上向かせ、自身と向き合わせる。逃げ場所がない。凄絶な顔立ちは変わらず険しい表情を浮かべている。声も低く怒っているようなのに、私の顎に添えられた指はとても優しい。

 ゴクリ、と喉がなる。
どうして、そんな切なそうに私を見るの?
「朔くんが、好き」
 覚悟を決めて彼にもう一度気持ちを伝える。その瞬間、彼の焦げ茶色の瞳が揺れた。耳がほんのり色づいている気がする。

「茜、本当に?」
 一語一語を区切る様にゆっくり彼が言う。顎に添えられていた指が外された。
 こくんと彼の目を真っ直ぐ見つめて頷く。その瞬間、思い切り抱きしめられた。

「やっと、言ってくれた……」
 まるで自分自身に言い聞かせるように呟く声にハッとした。
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