エリート弁護士と婚前同居いたします
私の涙を拭ってくれていた骨ばった指の動きが止まる。彼は指をそのまま私の顎に滑らせて荒々しくつかんだ。
 瞠目する私に構うことなく、彼が私と唇を合わせた。軽く伏せた彼の長い睫毛の下から覗く綺麗な焦げ茶色の瞳が妖艶に私を見つめる。

 その色香に私の鼓動が高鳴る。一旦唇を離した彼が、顎にかけていた指を私の左耳に滑らせた。乱れた髪をそっと左耳にかけて薄い唇を近付ける。

「いきなり可愛いこと言って俺をからかうお前が悪い」
 その甘い低音にゾクリと肌が粟立つ。背中に痺れのような感覚が走る。瞬時に熱を帯びる顔。そんな私を見てクスリと彼は艶やかに笑む。チュ、と啄ばむようなキスを左耳に落とす。ピクンと身体が跳ねる。

「か、可愛くなんか……!」
 なんで、なんでいきなりこんなに色っぽくなるの!?
 思わず漏らした不満の声は全部口に出せず、彼に唇を再び塞がれた。優しく上唇を食む彼に食べられてしまいそうな感覚に陥る。頭がクラクラして彼の色香に惑わされる。
「可愛いよ、茜は。誰にも渡さない、俺のものだから」

 キスの合間に囁かれた言葉は幻聴なのか、頭が真っ白になってよく覚えていない。
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