エリート弁護士と婚前同居いたします
翌日の夜。夕食の時間に間に合うように帰ってきてくれた彼を玄関で迎える。

「お、お帰りなさい」
 今まで何度も言ってきた台詞が今日は気恥ずかしい。そんな私をひと目みて彼はクスリと笑みをこぼす。
「ただいま」
 昨日から彼の目がとても優しくなった。前から優しい人だったけど、それにも増して。
 彼の低音が耳に響く。もうそれだけで私の鼓動が暴れ出す。こんな調子でこの先、大丈夫なのか不安になる。

「夕飯、作ってくれたの?」
 部屋着に着替えてダイニングに姿を見せた彼が驚いたように言う。料理が苦手な私だけど、昨日のお詫びも兼ねて今日は頑張ってみたのだ。出勤し、貴島先生に彼の好きなものをしつこく聞きだして作ったハンバーグ。そう、彼はハンバーグが大好きなのだそう。子どもみたいでしょ、と貴島先生は楽しそうに笑っていた。そして意外に抜け目のない先生に、昨日彼が電話をかけていたこともあり、洗いざらい追及されて白状するはめになった。

「俺の大好きなもの、ありがとう」
 彼が嬉しそうに目を細める。じわり、と目の周りが赤くなるのが自分でわかる。その顔を見れただけで料理をこれからもっと頑張りたいと思えるのだから不思議だ。

「いただきます」

 恋人になって初めての夕食はどこかくすぐったくて温かかった。
食事と後片付けを終えて、ふたりでリビングのソファに座る。彼はキッチンからアイスコーヒーを持ってきてくれた。私の左隣に腰かけた彼が形のよい唇を綻ばせる。

「何、緊張してるの」
「し、してない!」
 言いつつも頬が真っ赤なので全く説得力はない。

「可愛い」
 彼が甘い声で言う。
 もう、なんでそんなことばかり言うの!
 悔しまぎれに彼を睨んでいるのになぜか髪を撫でられる。完全に彼のペースだ。
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