エリート弁護士と婚前同居いたします
「……言えません。あの、もう結構です」
それだけ口にするのが精一杯だった。この人は間違いなく私を疑っている。本能的にそう感じた。
「ではお引き取りください」
表情ひとつ変えずに彼女は冷淡に言い放つ。
「念のために申し上げておきますが、そういった邪な気持ちでいらっしゃるのはおやめください。迷惑ですし、あまりしつこくされるようでしたら、こちらもそれなりの対応をさせていただきます」
毅然とした態度で言われて瞠目する。悔しさと情けなさで泣きだしそうになってしまう。
「……失礼します」
唇を嚙みしめ、うつむきながら小さな声でそう告げた。さっと踵を返す。早くここから立ち去りたい。心なしか周囲の人の視線が自分に刺さっている気がする。
「上尾さんのファン?」
「こんなところまで押しかけてきたの?」
「日高さんがいるから無駄なのにね」
「恐いわねえ」
切れ切れに聞こえてくる声。顔を上げることが辛い。
改めて彼がどれほど有名で、注目されている人なのかを思い知らされる。手が届かない人、というのはこういう人のことを言うのだろうか。
やっとの思いでビルの入り口付近まで足を動かす。背中から誰かに凝視されているようで居心地が悪い。早く帰りたい。ここから出たい。重い空気に身体と心が押しつぶされそうだ。
それだけ口にするのが精一杯だった。この人は間違いなく私を疑っている。本能的にそう感じた。
「ではお引き取りください」
表情ひとつ変えずに彼女は冷淡に言い放つ。
「念のために申し上げておきますが、そういった邪な気持ちでいらっしゃるのはおやめください。迷惑ですし、あまりしつこくされるようでしたら、こちらもそれなりの対応をさせていただきます」
毅然とした態度で言われて瞠目する。悔しさと情けなさで泣きだしそうになってしまう。
「……失礼します」
唇を嚙みしめ、うつむきながら小さな声でそう告げた。さっと踵を返す。早くここから立ち去りたい。心なしか周囲の人の視線が自分に刺さっている気がする。
「上尾さんのファン?」
「こんなところまで押しかけてきたの?」
「日高さんがいるから無駄なのにね」
「恐いわねえ」
切れ切れに聞こえてくる声。顔を上げることが辛い。
改めて彼がどれほど有名で、注目されている人なのかを思い知らされる。手が届かない人、というのはこういう人のことを言うのだろうか。
やっとの思いでビルの入り口付近まで足を動かす。背中から誰かに凝視されているようで居心地が悪い。早く帰りたい。ここから出たい。重い空気に身体と心が押しつぶされそうだ。