古き良き時代(短編集)
乙女の真心
【乙女の真心】



 久しぶりに読みたくなった本があって、押し入れから段ボールを引っ張り出した。
 一冊一冊確認しながら目的のものを探していると、ページの間にティッシュが挟まれている本を見つけた。

 何だろうと思ってそのページを開くと、中から出てきたのは、分厚い本に挟まれ、すっかり押し花になったコスモスだった。

 忘れていた感情が、色鮮やかに蘇る。

 ああ、そうだ。これは数年前に想いを寄せていた彼からもらったコスモスだ。「あんまり綺麗だったから」と、わたしにコスモスを差し出したときの、彼の照れくさそうな顔も、はっきりと思い出すことができる。

 結局わたしたちは友だち以上の関係にはならなくて、就職すると会う回数も減っていき、連絡がなくなってから数年という月日が流れた。
 今更彼とどうこうなりたいというわけではないけれど、あのときの気持ちは確かに「恋」だった。

 あのときの恋は心からすっかり消えてしまったけれど、自分の心を目に見える形で残しておけるというのは、なんだか嬉しかった。あの恋を経験したおかげで、わたしは少しだけ変わることができたのだから。


 それにしても。見よう見まねで作ったわりには綺麗な押し花ができた。忘れて数年間放置したというのに色褪せも少ない。
 そうだ。このコスモスの押し花で、しおりでも作ってみようかな。この感情に、真心を乗せて。





(了)
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