ラブレター
当時は言えなかったこと、たくさんあるんだ。
中学の頃、あゆみが読書感想文で賞を取ったとき、なんでかオレが誇らしくて、手のひらが痛くなるまで拍手してた。
中3のときの殴り合いの発端は、オレが「あゆみの字が汚くて読めない」って言ったことだったけど、実はあゆみの字、けっこう好きだったんだ。そりゃあ他の子みたいに丸っこくて可愛い字じゃなかったけど。さらっとしてて、字が流れてるみたいで。
なんだかんだ言っていつもノートを貸してくれたり、勉強を教えてくれるのも、すごくありがたかったんだ。ありがとう。
高2のときの芸術鑑賞会。東京の劇団の演劇やパフォーマンスは最高だったけど、拍手喝采の中、舞台袖から花束持ったあゆみが出て来て、びっくりした。それこそ心臓が止まるかと思うくらいに。
客席から見る舞台上のあゆみは、すごく華やかで、輝いてて。
このときだよ。あゆみのことが好きだって気付いたのは。
高校の卒業式で、あゆみはびーびー泣いてたっけな。その泣き顔があんまり可愛かったから、こっそり写真に撮って、今でもたまに見返してる。可愛かったから撮ったんだぞ。だから怒るなよ? オレの財布に入ってる。絶対取るなよ。絶対だぞ?
写真といえば、成人式も。あゆみの振袖姿、綺麗だったよ。そりゃあもう綺麗だった。会場前でふたりで並んで撮ってもらった写真、これもオレのコレクションのひとつな。
ただ、女の子たちが首に巻いてるモコモコ。あれは本当に必要か?
それから今だから言うけど、あゆみの髪、ラージヒルかってくらい長くて急な傾斜にセットされてたけど、あれはあゆみのリクエストでしてもらったのか?
あゆみに気持ちを伝える気になったのは、成人したのがきっかけなんだ。大人になったわけだし、いつまでも子どもみたいに言い争ってる場合じゃないなって。
好きだって言ったときのあゆみの表情は、いつだって思い出せる。
ぽかんとしたあと冗談っぽく笑って、でもすぐに真顔になって考えて、言葉の意味を理解したのか真っ赤になって、聞き返して。オレがもう一度「好きだよ」って言ったら、少し俯いたあと、こくこく二度頷いた。ああ、このときの顔も写真に撮っておくんだった。もったいないことしたな。