叶わぬ恋と分かれども(短編集)
入って来たのは、熊のような体格に穏和な表情の男性――姉妹店の店長、武田さん。
武田さんの隣には、大人しそうな顔をした小柄な女性。武田さんの彼女だろうか。
広げた包装紙を片付けていた店長は、それを放ってふたりに駆け寄る。とても嬉しそうに。とても親しげに。
「お疲れさん。どうしたの、ふたり揃って」
店長が聞くと、武田さんはやっぱり穏和な声色で「昨日言ってたうちの店の在庫を持って来ました。崎田さんとは駐車場でばったり会って」と説明する。
崎田さん、と呼ばれた小柄な女性は、柔らかい口調で「クリスマスなんだから、武田さんサンタの恰好で来れば良かったのにって話してたんです」と付け加えた。
「サンタからのプレゼントが武田くんとこの在庫かあ。色気がないなあ。武田くん、俺カレー一年分が欲しいよ」
「色気がないのはどっちですか。なんですカレー一年分って」
「ラーメン一年分でも可」
「って言ってるけど、どうする崎田クロース」
「そんなことより崎田クロースって、物凄く語呂がいいですね」
「いや語呂云々より、佐原さんがカレーやラーメンを一年分所望しているという恐ろしい現実を見よう」
「まあ、絶対飽きますよね。絶対余らせますよね」
「そんなことないよ! ちゃんと毎日食べ続けるよ!」
あの小柄な女性が誰かは分からないけれど、とにかく親しげだ。子どもみたいに駄々をこねる店長も初めて見た。
普段はしっかりしている店長も、親しいひとの前ではこうなるのか。
そんな姿を知れた喜びと、あんな店長の姿を日常的に見ているであろうふたりへの、強烈な嫉妬。
それを隠すよう、不織布ケースを持ち直した。