叶わぬ恋と分かれども(短編集)
三人は数言交わしたあと、店長と武田さんは荷物を運ぶために倉庫から台車を持って外に出て行き、女性はレジの斜め前にあるDVDの棚を見始めた。
私はレジカウンターの真ん中、二レジに立って作業をしながら、こっそり女性を盗み見た。
年は私と同じくらいだろうか。ネイビーのフレアスカートと清潔そうなブラウスの上に、キャメルのガウンを羽織るという、とてもシンプルで落ち着いた印象の服装で、大人が通うお洒落なお店の店員さんという感じだ。
ただDVDのケースを手にして、パッケージに描かれているあらすじを読んでいるだけなのに、様になっている。のは、落ち着いた服装で、背筋をしゃんと伸ばしているからだろうか。
もし今まであの服で働いていたのなら羨ましい。
買い取り販売店といっても、段ボールいっぱいの古本を運んだり、埃まみれの本やゲームの査定をしたり、膝をついて品出しをしたり……。わりと身体を使うこの仕事は、動きやすくて汚れてもいい服が必須。お洒落な服なんて着て働けない。そして可愛げのない無地の黒いエプロン……。
私だって、休みの日には雑誌に載っている可愛い服を着て出かけたりする。のに、店長と会えるのは店でだけ。動きやすさを重視した地味な格好しか見せることができない。それが何より悔しい。
ああ、そうだ。私も休みの日に店に顔を出せば良いんだ。幸い店長のシフトは全て把握しているし、この三ヶ月で休憩に入るタイミングも、比較的暇な時間帯も分かった。
それに合わせて「ちょうど近くまで来たんで」と顔を出せばいい。手土産を持ってくれば好印象なはず!
そうと決まれば早くアプローチを開始しないと。誰かに先を越されかねない。
だからこそ今日は、何としてでも店長に声をかけなければ。