叶わぬ恋と分かれども(短編集)
わたしは風邪を移されないようしっかりマスクをつけながら、純平と一真に風邪を引いた理由を聞いてみる。
どうやら昨夜、ふたりで三時間も寒空の下にいたらしい。
「なんの目的で三時間も外にいたの? 馬鹿なの?」
言ってやると、純平も一真もぜえはあと息を切らし、熱っぽい真っ赤な顔をわたしに向けた。
昼番の純平はこれからあと四時間働けるのだろうかというくらい目を充血させ、すでに朝番の勤務を終えた一真は普段から濃い隈がさらに濃くなり相当グロテスクな顔になっている。ふたりともひどい顔だ。クリスマスにこんな顔を見せられたお客さんの気持ちにもなってほしい。
「分かんないの?」と純平。
「なにが?」わたしが首を傾げる。
「なんでおれらがゆうべ外にいたか!」
一真が掠れた声を大にしたけれど、そんなことを言われても全く分からない。
「昨日、どこにいた?」純平が力のない声で問う。
「昨日?」わたしがもう一度首を傾げる。
「夜! 九時頃! げほげほっ」力み続ける一真は激しく咳き込み、もはや虫の息だ。
「ゆうべはサンタ撲滅パーティーだけど」
「サンタ撲滅?」
「なに、それ、げほっ」
「大学時代の友達とか、先輩後輩とか。とにかく恋人がいないみんなで集まって、楽しく飲み食いする会、みたいな」
言うとふたりは真っ赤な顔を見合わせ、大きなため息をつき、同時に長椅子の背もたれに沈んだ。
「え、なに?」
「なんでサンタ撲滅なんてするんだよ」と純平。
「なにもぼくめつしなくても……」一真も同調する。
「だってみんな恋人いないし、サンタさんからプレゼントもらえる年齢でもないし」
シフトの関係でなぜだかイブに休みをもらっちゃったし、ひとりで過ごすの嫌だし、パーティーは毎年の恒例行事だもん、と続けると、ふたりはまた大きなため息をついた。
困惑しながら店長を見上げると、店長も同じような表情でわたしを見下ろした。村山さんはちょっと、いや、完全に引いている。